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野池政宏のこらこらコラム

「B級的自然住宅のススメ」第2回
 いろいろ難しそうな言葉が出てくるが、理解できなくても読み進んでいただきたい。
 私は少し前まで木工用ボンドを販売していた。それは、シックハウス問題や環境ホルモン問題でたびたび話題になるフタル酸エステル類を使った可塑剤を含まないという特徴をもっていた。しかし、その製造方法は「酢酸ビニルモノマーとアクリル酸ブチルモノマーを重合させる」というものであり、いわゆる天然系の接着剤ではない。カタログには、この製造方法を正直に書き、さらに酢酸ビニルモノマーやアクリル酸モノマーの毒性を明記していた。酢酸ビニルモノマーは人に対する発がん性の疑いをある程度持つ物質であり、その発がん性評価(国際がん研究機関の評価)を正直に記載していた。
 こういうものをこうしたカタログで販売していると、「大丈夫なのか?」という質問がたびたび来る。可塑剤が含まれないことにどの程度の意味があるかは置いておき(実際ほとんど意味はない)、シックハウス問題に関して言えば「大丈夫」と判断していたし、また発がん性についても、それを住まい手が吸い込む可能性のある量は極めて微量なため、これについても「心配いらない」と答えていた。しかし「野池がそう言っているんだから信用しよう」と判断する人以外はほとんど納得しない。「いや、それでもこうやって発がん性の疑いがあると書いてあるじゃないですか。大丈夫じゃないでしょう」と来る。「それほど心配なら使っていただかなくてよいですよ」と返事するしかないのだが、「木工用ボンドは全部酢酸ビニルモノマーが原料ですよ。だからどのメーカーの木工用ボンドも使えないということになりますよ」と付け加えるのを忘れない。意地悪な返事だが、化学物質のことをきちんと理解し、最終的にできるだけ真っ当なスタンス(間合い)を取って建材を選んでほしいとこちらは思うから、そう答えたくなるわけである。
 私が「健康マニア」と意地悪に呼んでいる人にはきちんと化学物質の毒性のことを理解しようとする人は極めて少ない。とにかく「化学物質っぽい物質が入っているものはダメ」「とくに毒性評価を示したら絶対拒絶」というスタンスだ。そこまで化学物質を排除したいと思うなら、もっと真面 目に勉強しなきゃダメなのだ。天然のものでも、それが有機化合物なら、その成分を書けば「化学物質っぽい名前」になる。当たり前だ。本当に化学物質なのだから。毒性も探せば何らかのものはある。
 しかし、真面目に勉強してもきっとそれは時間の無駄になる。というか、ある程度理解するまで勉強するにも相当の時間がかかる。理科の素養がある私でも、シックハウス問題に取り組む中で化学物質の毒性を勉強してきて「だいたいわかった」となるまでに5年はかかった。私が“仕事で”やってきてそうなのだ。理科の素養がない人が、週末にちょこっと勉強するくらいでは50年くらいかかるだろう。いやいや、つい最近毒性学の専門家と評価されている人と話をする機会があったが、そんな人でも私には「基本的なところの理解が薄いんじゃない」と思ったくらいだ。理科の素養があっても、永遠にきちんと本質を理解できないかもしれない。つまり、こういうところに変にこだわってしまうと、永遠に家など建てられないということだ。
 じゃあどうしようもないのか、というとそうではない。解決方法には2つある。ひとつは「本質を理論的に整理していく」ということ。もうひとつは「この人の意見は信用する」という人をつくることだ。前者には能力が必要になる。それは理科的な素養という問題とは違うところの話だ。私の知り合いにも、理科的素養はなくてもしっかり本質を理解できる人がいる。後者の方法にも能力が要る。それは「ある程度の本質理解力と、人を見る目と、そして常識力」である。おそらくもっとも重要なのは最後の“常識力”だろう。
 専門的な理解度は重要ではないのだ。こだわれば“専門知識地獄”に陥る。「そこそこ」でいいのだ。「何か変だなあ。何かイヤな感じがするなあ」と思えるだけの“常識力”さえあればいい。
  派手でイカニモなラーメン屋の外観を見て「入りたくないなあ」と思える感覚さえあればいいのである(前号参照)。
 

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